宮沢章夫「東京大学「80年代地下文化論」講義」(2006)

 本を読む方に随分時間を取られて、レビューが追いつきません…月に3冊ペースでと思ってましたが、今月このままだと一冊になってしまうので、今回は記憶に残っている本をレビューしておきます。

 クラブミュージックをかじっていた私にとっては、この80年代という時代は大きな意味を持っていると感じていて、手に取ってみた一冊です。
 東京大学でのゼミの講義録になっていて、授業の手作り感がまずとても面白い。コンセプトは最初からあったが、その内容については、講義を重ねるごとにフォロワーの質問などを受けながら構築されていくライブ感が心地よく、後半になっていくにつれ議論がよくふくらんでいっている感じがする。最後のまとめはあまり面白くないものの、あと数ヶ月講義の日程が長かったらもっと面白い内容になってたんじゃないか…という雰囲気もしました。

 本書の序盤から語られる「ピテカントロプス・エレクトス」というクラブの文化として挙げられた「かっこいいもの」という表象と一種の排除的な雰囲気、そしてそのような文化自体の衰退、おたく(オタク)の登場といった変遷の描写、「メビウス」という作品がこのかっこいい文化とオタク的文化の交差する地点でヒットすることになったといった分析、60年代の全共闘運動などの社会動向の反映など、80年代に起きた一つの転換を、実例に富んだ形で議論していきます。

 まとめの内容がチープで、この80年代の動向について腑に落ちる形にはなっていない感じが強かったですが、色々と考えさせられた一冊でした。

理解度:★★★★
私の好み:★★★★
おすすめ度:★★★★